オーフェン新シリーズ4巻

2013/01/26 - かんそうぶん
魔術士オーフェンはぐれ旅 鋏の託宣【初回限定版】魔術士オーフェンはぐれ旅 鋏の託宣【初回限定版】
(2013/01/25)
秋田禎信

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面白かった。本当に。
秋田禎信という作家が好きで、魔術士オーフェンという作品が大好きで、自分が触れたすべてのものにほとんど不満を抱いたことがない幸福なファンであるという自覚はありますが。なんでも喜ぶ私が『これが一番面白かった』と思いました。
この話単品で…というのとは少し違いますが。
なんだろう。歴史の目撃者になってしまった心地です。
  
「鋏」単品の感想はいずれじっくり。
この記事では、いろいろ振り返ってみたいと思います。
  
思えば遠くに来たもんだ…。

新刊を読んで。
かつて富士見で刊行され一千万部を売り上げたオーフェンは、やっぱりあの時の作品だったのだなと思いました。
ファンタジー全盛期だったドラゴンマガジンで連載され、文庫はだいたいの本屋さんで平積みにされ、多大な売上を記録したあの時のライトノベルは、やはりあの時のことを書いていたなぁと振り返って思うのです。
自分の中で西部編(前半)は、すごくシンプルに言い切れば「自分探し」という90年代的なテーマと決着をつけた話で。
東部編(後半)は、「停滞の殻からの脱出」という、今思えばゼロ年代的だったんじゃないかなあというテーマと戦った話だったんです。

現在、オーフェンはすごくややこしい途中経過を経て、ひっそりと続編を出す形になりました。
いやまあ、売上は伸びてるみたいですが、何も知らない人に薦めるのが手間な程度にはひっそりしてると思います。
大きな出版社で量産するわけでもなく、一大プロジェクトとしてメディアミックスし駅ナカに広告を打ち出すわけでもなく。
だけど確実に世に新刊を送り出している。

新シリーズを刊行する前、作者さんはホームページでオーフェンを「終わってしまった作品」という旨の言葉で切って、ネットで遊びとして掲載する分にはいいが、目的のない物語を本にすることに疑問がある、という風に書いていました。
私はずっと前、無謀編が完結した当時に作者さんがホームページに載せていた「これで終わりだと思ってください」というコメントを強烈に覚えていて。ちょっと悲しくなったという思い出があったりしたので。
しょうがないかな、と思いました。
でも結果として書籍化されました。ファンサービスという目的に沿って、限定版という形で「秋田禎信BOX」が出ました。
当時の自分の感想ですが、限定版の「キエサルヒマの終端」「約束の地で」は設定やストーリーに広がりがあって、すごく魅力的なものであった反面、確かに「終わってしまった話のスピンオフ」だったと感じました。
言っていることが東部編の反復で、その延長線上で戦ってる話、というか。

そして結局、BOXの続きである新シリーズを、本屋さんで販売して打ち出すことになった。
それは作者さんの中で「書く目的」ができたということなのだろうか? と私は思いました。



そして今回「鋏」を読んで、なんか。

私のために書かれたんですか、と思った。

一読者にそう感じさせる力があった。
「自分探し」に決着をつけ、「外に飛び出した」変遷を経て、今は「飛び出した先の地獄で生きる」人の話。
自分たちの選択の結果として、明確な敵がいない、ままならない、過去と同じものではいられない容赦のない現実が目の前にあって、その只中で、近くの人と手をとって、目をカッ開いて全部戦う話。
だけどそれは決して修羅の道じゃなくて
油断すればいつでも修羅に転がり落ちることができるという爆弾も抱えつつも、人として人を守りながら生きてる人の話で。
なんだろう。
2010年代や…と思いました。
新しい話や…と思いました。

自分のことを書きます。便宜上かなり簡略化しますが適当にお読みください。
ゆとり世代です。未来には無限の可能性があると教えられて、「個性」という言葉を尊重され、終末の気配を感じさせる時代の中、贅沢に自分を探しながら育ちました。
目に見える範囲のものをよく見て、一個人じゃあままならないことがたくさんあるなぁ、世界なんか救えないなぁと思うようになりました。
大人になって社会に放り出されて、未来が見えないことを愚痴りながらしかし誰を怒ればいいのかもよくわからず。責めやすい小さな問題に責任転嫁したりながら、まあ、生きてました。

「分かりやすい悪党がひとり、そいつを倒せば終わり。
 だがそんな楽園に生きるのは、もうとっくにやめたんだろう。誰も」

うん…。
絵空事にしてくれない。
過去のぬるま湯は過去で、終わってしまったこと。望んでも望まなくても、元には戻らない。
死んでしまったものを無理やり動かすんじゃなくて、トドメを差してさらに前に進む話。
どこまでも自分の中で現実で、そのことに気づいてふと思った。
富士見で刊行された『オーフェン』は、少年少女向けのエンタメから始まったけど。これはもう、うぬぼれじゃなく本当に私のために書かれた話なのだろうかと思った。
かつて少年少女だった、でも大人になってしまった、今を生きる人に向けた物語なのかな、と。

もちろん制作側がそこまで意図的にやってるかどうかは知りません。関係者じゃないし。
でもやっぱりオーフェンはもうメジャー路線とか新規開拓というよりは、すごくピンポイントな層に言葉を絞って、それを深く貫くような作品なんだなと、そんな風に思いました。
そのターゲットど真ん中に自分がいたことに感謝することしかできない。
最大公約数を狙ったら、絶対にこの味は出なかったと思う。
今までの積み重ねを前提にしている、その極地だと思う。

今、どっちかと言えば流行りものって癒し系とか日常系路線である印象を受けます。
あるいはサクッと読める娯楽作品かな。それほど体力を使わず、元気が出る作品というか。
音楽とか分かりやすいですよね。アイドルとかエアバンドとかそんな感じ。
それが自分の中で顕著な「2010年代的需要」です。みんな疲れてるし。と。
コンテンツの中でまで疲れるくらい戦って、それをお金かけて消費することに喜びを感じる人は限られる時代だと思います。

オーフェンは、もちろんそっちの路線ではないです。
むしろ流れていく現実に容赦がないという点では、逆らってる方だと思う。
だけど、救いがない話かと言われるとそういう印象もない。むしろ、前向きで清々しい。
厳しくて複雑だけど、まっすぐで筋が通ってて、そして温かい。
やさしい話だと思う。
ピングドラムの感想でも同じことをいった気がしますが、厳しい世界を描くやさしい物語だと思う。
だから、展開に衝撃は受けども、ダメージは受けども、生命力は削られない。
疲れてるときにオーフェン読むと、不思議なほど元気がでる。
しんどいけど、しんどさを現実として踏みしめてる話だから、跳べる。
悲しいけど、その悲しさがかっこいい。

そういうところが自分の中で10年代的だから、「はぐれ旅」というタイトルにも運命的なものを感じます。
まぎれもなく今の話なのに、トレンドとかジャンルとか、いろんなところからはぐれてる。
はぐれ者にしかできない戦いをやってる。
それこそオーフェンやベイジットのように。


そういう、今までを総括するような感情がガーッとあふれる巻でした。
それぞれのキャラやドラマについてもいろいろ語りたいことはありますが、全体的に自分はこんな感じ。
クライマックス一直線ですが、なんだろう。グランドフィナーレ! って感じ。
富士見の頃のはぐれ旅も、無謀編も、プレ編も、終わってしまった過去として総括して、前に進む話。
本当にすべてに決着がつくんだなって思います。
東部編が終わった時の悲しさを覚えているから、今はすごく胸が温かい。

あー好きだなー大好きだなーと思った。
だから私は幸せです。


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comment (5) edit
うおおお | プレ編がまだ届かなくてモヤモヤしている

comment

はじめまして : 菊地
最近女神未来を読み終えた者です。

自身の読解力では読み解けなかったその答えを、誰かが語ってくれていることを期待して、ネットの海を泳ぎ、ここにたどり着きました。

時代と共に歩んできた物語であるという分析と、また、読者である自身が、その時代に当てはまるからこそ心を打たれるのだという言葉に胸が熱くなりました。

まさに自分が感じていて、けれども言葉にアウトプット出来ない複雑な感情を、綺麗に語っていただいたように思います。

おかげでオーフェンシリーズが、今までよりももっと好きになりました。
このブログに辿り着けて良かった。

ありがとう。
2014/06/26 Thu 00:25:06 URL
Re: はじめまして : サヤカ
はじめまして。管理人のサヤカと申します。
コメントありがとうございます! 投稿いただいた日に小躍りしながら拝見したのち、何度も読み返してじんわりと嬉しさをいただいておりました。にも関わらず返信が遅くなりまして申し訳ございません。

版権物に対する愛を語った以上、「原作がもっと好きになった」という反応をいただけるのは最高に幸せなことです。そうなんです、オーフェンはほんとうにすばらしいんです…! もはやわたしが言うまでもないんですけど! それでも何度でも言いたい!!
作品も作中の登場人物も作者も言葉も「今」を生きていたから、読者(=わたし)の人生に力強くダイレクトに響くのかなあと感じて、感動したのです。
同じように感じていた方がいらっしゃったのなら、そして、わたしの「好きだー!」が詰まった記事がその感動の力になれたのなら、こんなに幸せなことはありません。
こちらこそ、思い切って記事を書いて本当によかったです。そう感じられて幸せです。

ありがとうございました!
2014/07/09 Wed 23:42:41 URL
: 菊地
返信ありがとうございました〜♪
小躍りしていただいて幸いです(笑)
サヤカさんは作家志望さんなんですかね^_^
深い読解力と、綺麗でリズミカルな文章をお書きなってらっしゃるので、
言葉への愛がひしひしと伝わってきます。
これからもたくさんの言葉を紡いでいってくださいね♪

ところで、ヴァンパイアの暴走を止めていたものって、なんだと思いますか?
あれだけが分からなくて(^_^;)
レビュー探しても見つからず(^_^;)
お気づきでしたら教えてください(笑)
2014/07/18 Fri 00:33:20 URL
Re: : サヤカ
またも、という言葉では収まりきらないほど、前回よりさらに遅くなってしまって申し訳ありません…。何を言っても言い訳にはならないですがちょいとブログから離れておりました。
お褒めの言葉とても嬉しいです。
ラブ! 日本語!!

ヴァンパイアの暴走を止めてたもの、というのは最後のシマスがカーロッタが死んだ後も大人しかった理由、ということでしょうか?
実はあんまり分かってなかったりします(笑)
とりあえずは完全物質なりかけヴァンパイアと、完全武器っぽい鋏が呼応しあって、それを待ってたのかなあ…とう漠然とした認識でいます。
テーマとかお話とかキャラクター方面では、ひとしきり「うおおお!」と滾ってましたが、設定については進めば進むほど難解になるのもあって理解した自信はないのです笑

今、新シリーズの二周目を読み始めてたので、ぼちぼち理解できればいいなーという希望的観測です。
2014/09/14 Sun 10:16:04 URL
: 菊地
おひさしぶりですm(_ _)m

えっと、オーフェンがカーロッタに負けたのは、カーロッタがヴァンパイアのコントロールに成功したから、ですよね?

その成功の要因が詳しく書かれていなかったなぁと思って。

シマスと鋏がそろいつつある状況に感応して収斂していったとかなのかなぁ、とか。

なにかわかりましたら教えてください(笑)
2014/10/02 Thu 12:04:24 URL

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